電気機関車のある酒蔵(猫と機関車)令和3年6月29日

左党には全国燗酒コンテストで5年連続金賞を受賞した銘酒『龍門』、 猫好きの女性には手作り感あふれるラベルが人気の『近江ねこ正宗』でおなじみの酒蔵「近江酒造(東近江市)」。近江鉄道八日市駅近くの同蔵敷地に2019年末、見上げるほど大きな電気機関車「ED31」がやってきた。同列車は、1950年代に近江米など農産物の運送で活躍後、平成の半ばまで保線用の工事列車をけん引するなど活躍してきたが、近年老朽化が激しく解体を検討されていた。「歴史ある列車を活用して地域の交流拠点にしたい」と保存活動に立ち上がったのは、同鉄道沿線にある、びわこ学院大学の学生らでつくる「地域調査プロジェクトチーム」。賛同者を募り資金を集める『クラウドファンディング(CF)』制度を活用し2019年10月に列車の輸送費用を捻出した。学生らが全長11メートル余りで高さが4メートルを超える列車を展示するスペースを探すうち・・・「ご縁があって、うちの酒蔵に打診された。」と話すのは、近江酒造社長の今宿喜貴さん。「滋賀県の産業を支えてきた立派な産業遺産。鉄くずにしてはいけない。」と蔵の敷地に展示することを快諾。同年末には輸送が完了し地元住民らを招いて記念式典を開いた。「毎日のように通ってくる中学生や遠方から訪れる鉄道ファンもいて・・・・。」老若男女に愛される『遺産』としての可能性を実感している今宿社長は「内装(塗装)も整えて、高齢者が子どもに向けて、古き良き時代の思い出を語ってもらえる場になれば・・・。」と話す。「日本酒造りも地域の大切な文化遺産、これからもしっかり後世に繋げたいですね。」と笑顔で前を見た。近江國酒は滋賀の文化遺産。いつまでも生き続ける存在となるように見守りたい。

                                      滋賀県酒造組合 事務局長 澤 友二