近江國の酒と高浜虚子(2021年5月3日更新)

1805年(文化2年)創業の浪乃音酒造は大津市堅田に位置し、琵琶湖を臨む酒蔵近くには、歌川広重の画と伝わる浮世絵「堅田の落雁」に描かれた 琵琶湖上のお寺「浮御堂」(本当の名前は満月寺)がある。現在は長男の孝社長を中心に兄弟3人が力を合わせて酒造りに取り組まれ『浪乃音』を大切に守っている。最新設備を有する酒蔵から数メートルの場所に、三兄弟の祖父の住まいが残されており、酒造りがひと段落した夏の間だけ同蔵自慢の日本酒と地元の湖魚やウナギを中心にした肴を楽しめる左党垂涎の会席料理店「余花朗」を営業している。店名の由来は、俳句に造詣が深かった祖父の俳号で、師匠は、かの有名な高浜虚子だったとのこと。故に「余花朗」の玄関には虚子が「浪乃音」と揮毫した扁額が飾られている。また、当家の純米大吟醸に『古壺新酒』との銘柄があるが、こちらは虚子の造語で、「酒というものは古い壺に(形式)に花鳥諷詠という新しい酒(内容)を盛るようなものだ」・・・ということを意味しているとお聞きした。昭和22年頃 当家に逗留していた虚子は、毎夜 美味しい清酒を弟子の余花朗と酌み交わし俳句談義をしたであろう。35歳から亡くなるまで約50年間鎌倉に住んでいた虚子が詠んだ「浪音の油井が濱より初電車」という句がある。琵琶湖湖畔に滞在中の虚子が湖を眺めては鎌倉の浜を思い出し、また鎌倉の海岸に打ち寄せる波をみては、琵琶湖の浪の音を懐かしんでいたのでは・・・。       ここで一句 「去年今年 貫く酒の 旨きもの」虚子先生 ごめんなさい!!!!!

                  滋賀県酒造組合 事務局長 澤 友二