夫が造る自慢の酒を 妻手書きのラベルが彩る ー夫婦で醸す甲賀の銘酒

江戸時代、伊勢神宮から多賀大社への参詣のために整備された“御代参街道”沿いに建つ田中酒造(甲賀市甲賀町)は、創業110年を超える老舗酒蔵。

5代目当主で蔵元杜氏も務める田中重哉さんが、鈴鹿山脈の伏流水と地元産酒米を使った仕込みの作業をほぼひとりでこなす。繁忙期には蔵作業も手伝う妻智子さんが、15年ほど前から始めた得意の毛筆で書くラベルが好評で、現在のラインナップはほぼ智子さんの手によるもの。記念日の贈答としてオリジナルラベルの依頼も多く「オンリーワンの酒として、喜んでもらっている」と田中さん。

蔵周辺には飲食店がほとんどなく、蔵見学などで訪れた客からの依頼で簡単な食事を提供していたのが好評だったことから、2011年7月、蔵向いの精米所跡に木組みの店舗を建て、麹や酒粕を使ったスイーツとランチの店「Tana cafe」をオープンさせた。店内にはこだわりのおつまみや調味料、駄菓子も並べられ、蔵元自慢の銘酒を試飲し気に入った酒はもちろん購入できる。

酒造りの繁忙期である冬以外は、そば打ちや周年祭などのイベントを開き、春には新酒をお披露目する“蔵開き”も行う。「蔵訪問が、甲賀町に来ていただくきっかけづくりになれば」と話す田中さんは、甲賀市観光協会などと協力しながら、異業種とのコラボにも積極的に取り組む。「小さな蔵ならではの“手売り”にこだわり、客とのよき長き関係を築いていきたい」と話す。2022.1

妻智子さんによるオリジナルラベルは記贈答品としても好評だ。