JR草津線油日駅から徒歩約15分。室町時代の山城、山岡城跡のほど近くにひっそりと建つ酒蔵「望月酒造」は、西暦1800年ごろには酒造や酒の販売を開始していた記録が残る歴史ある酒蔵だ。
この地で真面目にコツコツ酒造りに励むのは、同蔵11代目蔵元望月大輝(ひろき)さん。父親の逝去に伴い、2020年12月に蔵元杜氏になった望月さんは「父の死後、目の前の雑務に追われ酒造りについて考える時間が足りなかった。今年はしっかりと酒造りに向き合いたい」と意欲を見せる。
2012年、同蔵で50年余り勤めた先代杜氏の引退に伴い杜氏を目指すことになった望月さんは、県内の複数の酒蔵を訪ね、酒造りを一から学んだ。「それまでは、おやっさんの経験に頼った酒造りしか知らなかったが、作業工程を記録する、もろみや酵母の様子を数値化することの重要性を教わったことで、酒造りの面白さも、むつかしさも知ることができた」と話す望月さんは「僕を受け入れてくださった蔵元と、酒造りの基本をしっかりと叩き込んでくださった各蔵の杜氏の皆様には感謝の気持ちでいっぱい」だと話す。
使う米や酵母、酒の味わいについても亡き父長裕さんと相談しながらやってきた、と話す望月さんは「父と目指してきた、米の旨味が分かる酒、呑み疲れしない食中酒をこれからも造っていくつもり」だと言い、長裕さんが、鈴鹿山脈と甲賀の甲(かぶと)を掛け合わせて名付けた銘酒『寿々兜』を「左党の皆さんから“望月の酒と言ったらこれ!”と言ってもらえるよう、奇をてらわず分かりやすい酒として育てていきたい」と笑顔になる。
洗米など水を使う場面が多い酒造作業だが、望月さんの「手」は、アンパンマンのようにもっちりすべすべ。“おいしそうな手”から生まれる今年の『望月の酒』が味わえる来春が楽しみだ。2022.10