日本酒のイベントや様々な酒席で出会う、滋賀の日本酒に“はまってる”女性が「初恋は大治郎」だと“告白する”姿を幾度となく目にしてきた。
「大治郎」とはもちろん、東近江市小脇町の畑酒造が醸す酒「大治郎」のことで、間違っても蔵元杜氏の畑大治郎さんご本人のことではない。いや、もしかすると畑さんのお人柄も含めての「初恋は・・・」発言をしている女性もいるんじゃないか、と思わせるくらい人も酒も非常に魅力的な「大治郎」。
2000年の発売当時から使い続けるラベルは、県内の福祉作業所で漉かれた和紙に地元僧侶の墨書、地元の契約農家の米を使い、蔵元杜氏になった10年からは畑さん自身も、酒造期以外は圃場で汗を流す。「造り手の顔が見える酒でありたい」との畑さんの思いあふれる酒が旨くないはずがない。
無濾過生原酒というインパクトのある酒で出発した「大治郎」だが、山廃仕込みや熟成酒、火入れ酒と年々ラインナップも増えてきた。「年を重ねて、食と楽しむ酒、長く呑み続けられる酒も造りたいと思うようになってきた」と話す畑さんは「米作りも酒造りも楽しいし面白い。今後も好きなこと興味があることにどんどん挑戦していきたい」と意欲を見せる。
若い日本酒ファンを育てたい、と大阪府内の酒販店らの提案で始まった「19歳の酒プロジェクト」も、今春11期生が蔵にやってきた。田植えや稲刈り、仕込み作業を経て出来上がった600本の酒は来春、その年のオリジナルラベルで各酒販店の店頭に並ぶ予定だ。毎年20~30人の“19歳”が経験する農作業と蔵作業をサポートしてきた畑さんは「彼らが社会人になったとき、ここでの経験が何かの役に立てれば」と願い「うちの酒だけでなく、日本酒ファンになってくれるのが一番の望みですけど」と彼らの将来に期待を寄せる。
人とのご縁を大切に、新しいことにも積極的に挑戦してきた畑さんを慕う若い蔵元杜氏らにとって「アニキ」的存在の畑さん。前述の滋賀酒ファンの女性らも「初めての居酒屋で、メニューに『大治郎』の文字を見つけたら、なんか安心するよね」と言わしめる、まさに滋賀酒業界で不動の「アニキ」を、これからも全力で応援したい。 2022.6