「生酛THE Sake クラシック」伝統と革新の二刀流 北島酒造 

 琵琶湖の南東に位置する湖南市で200年余り酒を醸す北島酒造。14代蔵元の北島輝人さんが平成20年から挑戦しているのが「生酛(きもと)造り」の酒である。「生酛造り」とは、蔵の中の乳酸菌などの力を借りて、雑菌の繁殖を抑えながら酵母を育てる醸造方法で、温度管理や米を擦り潰す「もと擦り」などの作業に手間がかかるため、取り入れている蔵は県内でも多くない。北島さんが、手間のかかる生酛造りに挑戦したきっかけは、15年ほど前、福島県の蔵元が造る「生酛造り」の酒を呑んだ際「冷酒だと良さが分からなかったが、燗酒になると味わいが増し、温度が下がっていくとまた別の味が顔を出す。飲み続けて楽しい酒」だと感動したこと。手間と時間をかけて造る酒は、華やかな香りと味わいの吟醸酒や。ガツンとインパクトがある原酒などとは異なり「じわじわ美味しい酒」だと北島さん。「生酛造り」はその味わい同様「じわじわと」ファンを獲得。醸造方法や蔵のこだわりを理解し応援してもらえる酒販店でのみ販売するスタイルもこの酒の「特別感」に花を添える。多くの人手が必要な「もと擦り作業」の直前には、自らfacebookを使って「助っ人蔵人」を募集するなど「今どき」の手法も駆使して醸す酒。「伝統と革新のバランスが大事」だと話す北島さんは、懐深く体幹のしっかりした「生酛のような男になるのが目標」だと爽やかな笑顔を見せた。近江國酒のさらなる革新を感じさせる蔵である。   

                                  滋賀県酒造組合 事務局長 澤 友二